2019/06/06 13:58

長岡トキさん(民芸部・84歳)

民芸部の中でもひと際仕事の早いトキさん。

10:00から民芸部が始まって、まずは材料を組んで底を作ります。

私が民芸部の皆さんにあいさつしながらあれこれ話しながら一回りしているうちに、もう底が出来上がっています。

そしてまた一周して戻ると、はけごの形が見えるくらいになっています。

初めて目にしたときは、「これ今日作ったんですか?」と真剣に聞いてしまいました。

しかもその仕事がとても丁寧なのです。

15:00に民芸部が終わる頃には半分近く出来上がっている、というのがいつも。

そんなトキさんに、今後の新作はけごの相談に上がりました。

 


トキさんは朝日町の中でも中心部にお住まいですが、ご出身は山形県の北部の尾花沢(おばなざわ)という地域。

尾花沢は山形県内でも有数の豪雪地帯で、朝日町より降ります。

因みに、都道府県別の過去10年の積雪量で山形県は全国一位です。一位の理由は、県内に雪が少ない地域がないことと、尾花沢のような豪雪地帯がいくつかあることで、平均値が高いからです。

そんな尾花沢はすいかの名産地として有名です。火山灰が堆積した地域なので、栽培作物が限られている分、すいか栽培には適しています。

トキさんも学校を卒業後、夏場は家業の農業を手伝い、冬は針子(仕立屋さんに雇われて裁縫仕事をする子)をして稼いだそう。


当時は田んぼも手植えの時代。「人が10株植えるうちに11株植えろ」という親の教えのもと精進して「田植えの早さなら負けないよ」というトキさん。でもそんな農業が辛く、手に職を付けたい、でもこの地域で身に付けられることには限りがある、と知り合いの紹介で東京の田端で和裁を習い始めました。20歳を過ぎたころでした。

私は「和裁を習う」ということがどういうことなのかわからず、トキさんに詳しく聞きました。

 


和裁を習う場合は住み込みと通いがあるのですが、トキさんは田端に住み込みました。初めは二年ほど「通い子(かよいっこ)」をします。大きな風呂敷に出来た着物を持って納品、そして新たに布を持って帰る役割でした。通常は通い子からのスタートですが、トキさんは針子の経験があったため、通い子はせず、次の段階から始まったそうです。縫い方から始めて、最初は目立たない裏地から。それが表になり、袖になり、とレベルアップしていくのです。袖なら袖をずっと作る期間があり、着物一着を仕上げるのが分業制になっていました。布を切る(裁つ)、裁ち方は失敗が許されない親方の仕事で、最後に習うのだそうです。そうして免許皆伝となった者は、独立開業して商売したり、生徒をとったりしました。

和裁を習う期間は、技術を習いに弟子に入るようなもの。衣食住はあるけれども給与はありませんでした。唯一、針供養のお祭りのときはお駄賃がもらえたため、出向いた浅草で遊んだりしたそうです。

いつもの生活は夜遅くまでの作業。日付が変わる頃、仕事終わりに入る銭湯のお湯は濁っていました。



トキさんは二年の修行の末、地元に帰り朝日町に嫁いでからも、仕立屋さんや染物屋さんからの受注を取っていました。

 


そうして働き続けて、自分の趣味に時間を使えるようになった頃、地元の婦人会で民芸部の方に出会ったのがきっかけで入部しました。それが約二年前のこと。なんと、私が民芸部に通うようになったのと同じ時期!!

え!?と思わず聞き返してしまいました。同じ期間過ごしても私はまだ初歩の初歩。トキさんは「はけごもそんなに種類は作れない」とおっしゃりながらも、出来上がったものはベテランそのもの。

私は今まで人に話すときに「トキさんはベテランで」と言っていました。出来上がったはけごから、てっきりそう思っていたのです。でも、トキさんのお話を聞いてそんな勘違いも致し方ないと思いました。

 

ご自宅には玄関から壁から、トキさんの手作りのものばかり。小さなお地蔵様やパッチワークのタペストリーなどがたくさんあります。


「今は自分の好きなものを好きなように作っているだけ。だからいつも何かしているんだ」とおっしゃるのですが、私はそのクオリティーに驚くばかり。

一方、はけごについては「お客様に販売するものだからね、きちんとしてないとね」と。

やはり自分の手仕事を生業とされてきた方は、作品に矜持があると言いますか、職人気質だなと思います。

和裁で培った技術と精神、そしてはっとさせるセンスがトキさんのはけごにはあります。
 


トキさんの作ったブルーのはけご(クラフト素材)の手提げ、持ち手の下に花をモチーフにした飾りがあります。片方の面には白の花が二つ、もう片方には手提げと同じ色のブルーの花が二つ。

白い方が見えるように持つと、カジュアルで明るい雰囲気。青い方は着物にも合うような落ち着いていて上品な雰囲気。

素敵なアイデアに心が弾みました。

とってもアートな作品、かつ使い手の心をくすぐる遊び心、TPOに合わせた「用の美」。そんな三要素を持ったはけごを作れるトキさんの心は素敵だなと思います。


今はトキさんと新作のアイデアを練っています。

トキさんのお力を借りて、皆様に三要素みっちりのはけごをお届けできる日が楽しみです。